Real “Skeuomorphism”
昨年末にアップルで iOSを担当する責任者が退任したことにより、それまで同社で推進されていた Skeuomorphic Designというソフトウェアのデザイン手法の採用の見直しが迫られていくのではないかと話題になりました。
また、 Windows8で採用されているモダン UIではSkeuomorphic Design とは対照的に余分なグラフィック効果を一切排した平面的で極めてシンプルなデザイン手法が取り入れられています。
このあたりの話題は海外のブログではよく見かけましたが国内ブログでは比較してあまり目にしませんので改めてまとめてみたいと思います。
Skeuomorphic Design
Skeuomorphic Designとは現実世界のプロダクトなどの見た目や用途を模倣してデザインを行う手法です。
例えば、本を読むためのアプリケーションでは見開きになった本の中身が表示され、左右にフリックすることで現実の本のようなページ送りのアニメーションが発生します。
例えば皮の質感そのものは Skeuomorphic Designではありません。その模倣の対象となったオリジナルのプロダクトが皮の外観を有していてその本来の目的を満たしている場合にそれは Skeuomorphic Designのアプローチが成されているといえます。
アップルの iOSヒューマンインターフェイスガイドラインには「 アプリケーションのリアルさ、物質的な質感はできる限り高めるように」、と推奨されています。
ナイスな点とあまりナイスでない傾向
物質的なアプローチをデザインにとりえれることでいくつかの利点があります。
- アプリケーションの外観と動作が実物そっくりであればあるほど、ユーザーはアプリケーションがどのように機能するかを理解しやすくなります。
- 新しいユーザーにとってのその新しい技術に対する経験がない場合は抵抗感を軽減します。
- 表現が適切に行われている場合は親しみや優しさ、温かさなどを与えます。
- 特徴のある見た目は見ればすぐにそれがなんであるかを判別できます。(アプリを横断的に使用しても混乱しません)
反面、デメリットもあります。誤った方法により見直しや反感の要因になっている部分ですので少し掘り下げます。
テクスチャが意味をなしていない。
「友達を探す」アプリではツールバーに皮の質感が使用されていてさらにステッチが施されています。模倣の対象となる現実のプロダクトなどがない場合などに、このように意味がなく説明がつかないテクスチャが使われることが非難されています。
模倣が行われているのにもかかわらず、適切な機能が提供されていない
「アドレスブック」アプリでは本を模した体裁の外観が与えられているのにもかかわらず、本のような振る舞いをしません。他の本を模したアプリで行えている使用感が提供されていないことでユーザーは混乱します。
模倣することによってユーザビリティが損なわれる。
パッと見ですぐの求められている操作方法がわかるにしても、模倣の対象の操作がタッチパネルデバイスにおいてはそもそも複雑すぎる場合があります。そういった場合には模倣を控えた方が良いでしょう。
模倣の対象が時代遅れで若年層に理解されない。
「Passbook」アプリでチケットをシュレッダーで裁断するアニメはブラックボックス化したシュレッダーしか目にしない若年層には意味不明に映る可能性もあります。対象があまりにも古臭くならないように配慮する必要があります。
ユーザーのリテラシーが成熟するにしたがって過剰な表現は飽きられる。
iPhoneが登場した当時はタッチデバイス自体が真新しいものだったのでユーザーを十分なやさしさでカバーする必要がりました。しかし、時が経つにしたがってユーザーも成長を遂げてベーシックなリテラシーが向上しました。またデザインのトレンドとも関わる部分ですが、必要以上な恩着せがましい表現よりも飾り気の少ないシンプルさを好むユーザーが増えているのも事実でしょう。
デザイナーのエゴの発表の場になる。
よりリアルに近い表現を探求するデザイナーにとっては自らのハイスキルの発表の場になってしまう場合があります。行き過ぎた表現によってユーザーを無視して同業者に対してスキルを誇示したり、ただの自己満足にならないように注意する必要があります。
また、過去の記事でも取り上げさせていただきましたが、ネットへのアクセスが自宅のPCでのアクセスから出先の無線通信環境下でのアクセスへと移行している傾向がありますので、ネイティブアプリはともかくとして通信の伴うアプリではシンプルでサイズの少ないデザインの方が速度が上がります。このあたりが最近のシンプル重視のデザイントレンドと関係しているとも考えられます。
Skeuomorphic Designと今後どのように付き合っていくか
Skeuomorphic Designとは対照的に、よりシンプルでフラットなデザイン手法が勃興していることは確かですが、それをデザインのトレンドだけとして捉える必要はありません。
UIの改悪がUX を改善させる場合という記事が少し前に話題になりましたが、こういったことは Skeuomorphic Designにも言えるでしょう。
もはや過去の産物となりつつある(実際には地味に再燃したりしている)レコードの場合を例として挙げてみましょう。
音質がデジタルとは違うことはさることながら、本来なら面倒なだけの盤をひっくり返す作業で気持ちを切り替えたり、くるくる回る盤の回転をただじっと眺めることでそこに何らかの哲学を見出しているような魂の成熟したユーザーもいることを見逃してはいけません。
時と場合に応じたり、利用するターゲットユーザーに合わせた最良なユーザー体験を提供することが大切です。
これは極端な例ですが似たようなケースは案外あるものです。
こういったユーザーニーズを的確に汲み取っていくためには、トレンドなどにあまり囚わされすぎずに淀みなくレイドバックした心で物事を見渡してみるとよいでしょう。